凄い麻雀漫画『メジャー』の話

本日は作:南波捲 画:伊賀和洋の麻雀漫画『メジャー』の話です。


正直この漫画については四方田さんの紹介がレベルが高すぎて、俺などのレベルでは書く事は特になかったりするんですが、まあそれでも俺なりにまとめてみようという事で。


この漫画は

「でっかい夢を持っている天才主人公が、画家になろうとするも自分の才能の無さに気づいて挫折し、田舎で細々と美術教師をやってるおっさんと出会い、二人三脚で夢を叶えようとする。
 やがて彼らはライバルとその師匠格のおっさん、その他の人達と出会い、やがてその熱意と実力のぶつかり合いに魅せられた多くの人間が集まり、ついに天才とおっさんその他の夢は叶う」

という、実に王道ネタな話です。


……が、問題はその天才の夢の内容。
それは……

「麻雀で人生を生きていく」
「麻雀を本当にメジャーな競技にする」

というもの。


しかも、作中の描写からして、「本当にメジャーな競技」のレベルは、将棋・囲碁等を飛び越えて、ゴルフ・サッカー・野球といったスポーツと同じくらいらしい。


無茶です。
無茶すぎます。
いくらフィクションと言っても限度を超えまくった難易度の高さ。
シマコーが愛人力を全開にして難しい案件を解決していったり、サラリーマン金太郎が会社の危機を救うなんていうのとは次元が違う話です(喩え悪すぎ)。



だがしかし、恐ろしい事にこの作品はそんな荒唐無稽な話を「もしかしたらあるかもしれない話」というレベルでまとめ上げています。


その原因の一つはまず、天才の裏方に回った美術教師、高浜の地味な活動。
既存の麻雀団体のここが駄目だ!というのを、「ここは派閥争いに汲々としているから駄目」「ここはトップに組織運営力がないから駄目」「ここは麻雀プロの団体と言うよりも宗教団体」など、(俺は半分くらいしか分かりませんでしたが)実在の団体をモデルに指摘し、さらにその問題を解決した案「ツアー制度」を考えだし「主人公が道場破り的に既存団体に殴り込みをかけて名前を売り、仲間を集め、俺がスポンサーを見つけてきてお前が活躍する舞台を作れば必ず麻雀はメジャーな競技になる!」と説く。
ここら辺の地味さとリアルさと「最終的には金がねえと何もできねえから!」という身も蓋も無さが、話にリアリティと説得力を与えております。
(最終的にはあらゆる筋からスポンサーになる事を断られ、最後にスポンサーになってくれそうだった出版社が実はそんな気が全く無かった事にマジギレしている所に偶然出会ったベンチャー企業?の社長がスポンサーになってくれるというご都合主義的な解決を見ますが、それはまあハードルの異常な高さ故にある程度は仕方ないという事で……。)




そしてこの荒唐無稽な話にリアリティを与えるのは、何より物語を動かす主人公若園とライバル花巻の、麻雀を知らない者でも何となく「確かにこれは凄いわ」と思えてしまう天才描写です。


ライバルの花巻は「麻雀を極めるには麻雀以外の全てを生活から切り捨てなければならない」と言い切り、実際に最低限の生活費を稼ぐ以外(具体的には週2日働いている以外)は全て麻雀に打ち込み、さらに「主人公に勝つためにはこれでも足りない」と師匠格の小田原から生活費の援助を受けて生活の全てを麻雀に注ぎ込みます。


彼が「全てを自らの力でねじ伏せる麻雀」を極めるために、豹の檻の前で「俺は強い……俺は豹だ!豹になるのだ!」とブツブツ呟いている場面はまさに圧巻!。



その結果、彼は戦う時に豹のオーラを纏うまでの高みに達します。



いやこうして切り取ってみるとギャグにしか見えないんですが、流れで読むと全くギャグに見えないんですよこれが。



対する主人公はどうかというと、これまた凄い。
彼は異常な記憶力を持ち、中学の時から自らの打った麻雀の牌譜を可能な限り再現し、それを日々研究し続けている。


さらにそれを「プロを目指すなら当たり前の事」と言いきる。
そして最終的には「自然と、麻雀そのものと一体化してその場の全てを支配する麻雀」を完成させた主人公はとうとう宇宙と合一するほどの高みに到達します。



これまたどう見てもギャグなのに流れで見ればギャグとは思えない。



すみませんちょっと嘘付きました。
流石に宇宙と合一するのはやりすぎだと思いました。
あと、端っこに首出してるライバル君がシュールすぎて面白さがさらに倍でした。



いやまあそれはともかく、「麻雀を有名スポーツと同じくらいメジャーな競技にする」という無茶な話を強引に書ききった話として、そして「一人の天才が一人の夢敗れた男と出会って、二人三脚で夢を叶えていく話」として凄い面白いんですよこれ。


個人的には、天才君は単に「麻雀だけやって暮らしていきたい」というある意味純粋な、ある意味のんきな事しか考えてないのに対して、一度夢破れた師匠の方は「世の中を改革する!そのためにはこの天才を売り出して既存のシステムを根こそぎひっくり返すんだ!」とドス黒い執念が微妙に混じった事を考えてるのが変にリアルで好きですはい。




かように素晴らしい麻雀漫画『メジャー』。
幸いにも未完だった所を2年ほど前に小池書院がコンビニコミック版として完結させてくれたそうで、是非読んで頂きたいものです。


あと、そこまでしたくない人も四方田さんの『メジャー』紹介文「白の心だ!」は本当に名文なので、是非読んで頂きたい。
正直、ここ2年くらいに読んだ何かの作品について書かれた文章としては間違いなく最高の物ですので。